【書評】大事なものは見えにくい/鷲田清一

現代人が抱える孤独感、自己否定感の答えがこの本にある

この本は30年間哲学研究に向き合ってきた著者の書いた『哲学書』である。

Amazon内では『エッセー・随筆』に分類されてしまっており、最初なんの予備知識もないまま読み始めた当初のわたしも「これはエッセイだろうか?」と感じたので間違いではないのだが、読み上げて感じる、これは哲学に哲学を重ねた著者だからこそ導き出せる、うなりをあげることばかりが連続するスッキリ哲学の名著であると。

とはいえ哲学書だからと二の足を踏む必要はなく、きわめて読みやすい。

読みやすいうえに、冒頭に冠として書いたような答えをズバズバと導き出しているお悩み解決本とあいなっている。

むろん著者はそれを狙って書いたというわけではないだろう。

 

どうしてわたしたちは日々世間をにぎわせる重大ニュースを、いっときのことのように忘れていくのだろう。

どうして女性と違って男性が定年後にいっきに老けやすいのか。

どうして『死』が悲しいのか。 (そもそも死とはなにか)

やる意味を疑いたくなる無意味な謝罪会見、サービスの低下に文句をつけるクレーマーが出てくる理由。

その答えは本書にある。

 

なおわたしの心をぐさりと刺したエピソードは、なかでも著者の『うなぎ』のエピソードだ。
これはもともとわたしが持っていた「我々はこれでいいのだろうか?」という、意識の裏のやんわりとした疑問符を一気に表面へおしやった。
明日からの『食事』に対する観方は少なからずとも変わった。変わらないわけにはいかないだろう。

  

哲学は1つの問いを何度も何度もはんすうしてある種の『納得』を得るために自問自答していく学問である。

そして本書もまた、一回の完読ではそうたやすくはすべてを整理・消化しきれず、書かれている貴重な『納得』も覚えきれるものではなく、日をあけて何度も吟味して、おのれの血と肉にしたくなる、悩める現代人のための名著である。

わたしも改めて、「受け身の優等生」にはなるまい、「心のうぶ毛」を働かせなければ、と改めて思う次第。 

心に留めたい文章たち

業務につくひとも、そもそも資格と能力のある人だったらだれでもよいわけで、各人はいわばいつでも交換可能な存在とみなされる。

「人格」をあらわすパーソンのラテン語源「ペルソナ」がもとはといえば演劇で使う「仮面」を意味していたことは、なかなかに深い洞察が含まれている。

「教養」とは、一言でいえば、何がほんとうに大事で、何が場合によってはなくしてもいいものかを見分ける力のことである。ものごとの軽重の判断がつくこと、と言いかえてもよい。

松下幸之助はかつて、一堂に会した自社の管理職員の前でこう説いたという。成功するひとが備えていなければならないものが三つある。それは、「愛嬌」と「運が強そうなこと」と「後ろ姿」だと。 

じぶんが他社から強制を受けたくなければ、じぶんも他社に何かを強制してはならない。(リバティとリベラリティのくだり) 

「手に取った瞬間にモノを通じて自分が大事にされているということが感じられる」もの、それがよいデザインだというのである。

バラエティ番組は観れば観るほど、観るほうの孤立感をきわだたせてくる。観ているうちに、淋しさがこみ上げてくるものなのである。

本の情報

大事なものは見えにくい (角川ソフィア文庫)

  大事なものは見えにくい (角川ソフィア文庫)

 

著者

鷲田清一

出版社

角川学芸出版 

発売日

2012/11/22

目次

1:問い
 人生の「課題」
 納得
 〈わたし〉にできること、できないこと
 あえて遠い居ずまいで
 プライドということ
 身を養うということ
 だれもじっとしているわけではない
 「忘れ」の不思議
 死の経験 

2:行ない
 「何やってんのやら」-裏版・リーダー考
 「遺憾」だけはいかん!
 「自由」のはきちがえ
 プロにまかせる?
 「監査」という仕事
 デザインの思想
 ブランド考 
 カタチから入る
 ことばの故郷
 要約
 英語はグローバル?
 野次馬と職業人
 「とことん」に感染する若者たち
 お笑いタレントの「罪」

3:間合い
 受け身でいるということ
 届く言葉、届かない言葉
 語りの力
 言葉の幸不幸
 「くやしかあ」
 聴きにくい言葉
 あえて聴かないこと
 リスニング
 インタビューの練習
 イメージと妄想
 対話ワークショップ
 たしかな言論はどこに?

4:違い
 ひとを理解するということ
 ひとを選ぶということ
 待たれる身
 隣のひげについ触れる距離
 あの人が突然いなくなった
 恋はせつない、やるせない?
 脇役

5:養い
 獣医さんという存在
 むかしの歯医者さん、いまの歯医者
 「おいしい?」ではなく「おいしいね」
 偶然を使う
 「患者様」
 「専門性」の罠
 悲しい眼
 水筒
 うなぎ

6:囲い
 転移ー「いじめ」の論じ方をめぐって
 密室化が「いじめ」を生む
 学校的なもの
 逆立ちの「体験学習」
 いきなり本番
 「無理」ということ
 学びと挫け
 「バイバイ」
 おごり、おごられて
 内向きな光景

7:佇まい
 「不通」の社会
 柔らかなスローガン
 「顔」が変わった?
 社会に隙間のあった時代
 意味はなくとも
 高貴なまでのしどけなさ
 ざわめきのなかの気品
 タクシー三都物語

8:迷い
 夢占い
 ひとは悩んで大きくなる?
 減らすのはむずかしい
 スローライフにお忙しい?
 足らざるに足るを見る
 健康についてのヘンな話
 身体の「正しさ」について
 跨がれる時間
 ラスト・ダダ
 夕暮れはまだ遠い
 1 いまだ思い知ることなく
 2 弱気なのか意地なのか
 3 洗い場のスポンジのように
 4 成熟からはほど遠く 

あとがき 

本書は図書館で借りて読んだものだったのだが、読んでいる途中でAmazonでの購入を決めた。
何度も読み返したい、わたしにとってバイブルのような本だと感じたためだ。
我が家のトイレに置かれることが決定した。