ロイヤルノート|でくのぼうのアロマでエスプレッソな雑記

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この世界の片隅に《ネタバレなし映画レビュー》※超映画批評になかったので

 

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主人公の声はのんさんじゃないと完成しない

レビュー前に1つだけ余談を。

この予告ムービーがいかに核心をつかずに映画の全体像を表現しているかが、一度観たあとだとよくわかります。

あまりの映画の出来栄えに、最初は狭い範囲での公開状況だった本作品が次々に上映館数を拡大。

動員130万人を記念して主人公である『すずさん(声・のん)』からのありがとうメッセージが新しく公開されるというおもしろい出来事まで起きています。

ありがとう動画の映像は、これまた核心に触れずにすずさんという女性のふわふわした魅力を短い時間で端的に表現しています。
すずさんってこうゆう人。癒されます。

公式サイトに記載がある通り、声優がのんさんじゃないとこの作品は完成していなかったはずです。あの声あってのすずさんという人物像が完成するんだな、と。

主人公すずさんを演じるのは女優・のん。片渕監督が「ほかには考えられない」と絶賛したその声でやさしく、柔らかく、すずさんに息を吹き込みました。

konosekai.jp

 

それでは、以下批評です。

戦時中の広島で生きた女性の物語 

昭和20年前後の広島を舞台にしたお話で、主人公は『すずさん』。
18歳でお嫁に生き、ひとり見知らぬ地で夫の家族と暮らしていくというアウトライン。

すずさんはいつもぼーっとしていて、絵を描くことが好きで、穏やかで優しい人。

どこにでもいそうな普通な人といえば確かにその通り。

そんな普通な人が体験する戦時中での生活だからこそ、観客はすずさんに自らを投影することができる。

すずさんを通して、観客は我が人生に迫ってくる戦争という名の不条理に多々遭遇することになる。それも極めてリアルにだ。

劇中の中で、いかに普通であることが大切かをオマージュするような節が出てくるが、これは「個性的でありたい、目立ちたい、普通なんてイヤだ」などなど何かと『普通』を目の敵にしてしまいがちな現代人へ贈る、軽い皮肉とも受け止められる。

唯一の鮮血に重要なメタファー

この映画には唯一血が出てくる、とあるシーンがある

このシーンは映画の『核』であり非常に短い秒数なのだが、その数秒のインパクトは凄まじい。
グロテスクでもないのにいつまでも心に焼き付いて離れない人々が続出すること間違いなしだ。

このシーンが本映画にとっていかに重要なパートなのかが、超普通で凡人な我々にもわかりやすいように設計されている。

しかも当シーンは単純な使い方をされるのではなくて、もう一歩踏み込んで他のある人物のエピソードも表現している二重構造になっており、うまい。

これ以外にも本映画は非常に暗喩が巧みだ。

ハッキリと言葉では説明しないものの、それこそすずさんくらいニブい人でもちゃんと理解できるよう、人間関係やバックグラウンドやつながりなどをキチンと表現してくれる。

説明もないのに新たな登場人物がやって来た時に「あぁ、あの人か!」と気付かせてくれるアハ体験を提供され、まるでこっちが賢くなったかのような錯覚までプレゼントしてくれるという太っ腹な映画である。

さらっとやっているが、これを整理して1本の映画の流れに組み込むのは相当な苦労と、全体像を上手に見渡せるかなりの強者が制作サイドにいたと感じざるを得ない。

本当に子供でもわかるくらいの明快さだ。
要素を限定し無駄をそぎ落としていることで分かりやすくなっているのではないだろうか。

エンドロールのラスト5秒

実はこの映画は本編が終わったあとも、大事なメッセージがまだ残されている。

エンディングのBGMもやみ、全てが終わった最後の瞬間に視聴者はかなりの確率で胸を締め付けられるはずだ

筆者が今まで映画を観てきた中で、これほどまでにスクリーンに触れたいと感じたことはなかった

エンドロールが終わるまで席を立たないことをお薦めする。

反戦映画ではない

昨年からヒットを飛ばし続ける『君の名は。』はシンプルに感動できる素晴らしい映画だった。
しかし後世に残すべき大切なメッセージの含有量が『この世界の片隅に』は群を抜いている

『君の名は。』は誰が見てもおもしろく単純明快なSFの娯楽映画だとすれば、『この世界の片隅に』は観る人の感性・感受性を高めるヒューマンドラマであり、舞台が戦時下であっても特に重きを置くべきは反戦ではなく、そこに生きる人々の生きざまと心の在り方そのものだ。

戦争ものは嫌いだといって毛嫌いしてしまう人がいたとすれば、それはもったいない。

本作品は「ワンワン泣かずには観られない」といったような過激さもない。
むしろどちらかといえば『ほのぼの』『笑える』こんな心象のほうが多く残る、基本的にはとても穏やかな作品だ。

戦時下を舞台にしてここまで観る人の心をほのぼのとさせられるのは、主人公すずさんの魅力にほかならない。 

この世界の片隅に

映画の中ですずさんは、作品のタイトルを発言する。

このシーンでタイトルとともに発せられるすずさんからのメッセージは夫に向けられたものなのだが、この一言がこれまた一気にすずさんの人間的な魅力も、戦時中という世界観も、観るものの感動も全てを底上げすることになる

筆者はすずさんのセリフに対し「いえこちらこそ」と言いたくなったのだが、ほかの観客のかたがたはどうだっただろう?

あまりに素敵な言葉だったので、将来嫁さんが確定したときに言いたいと思った。(まだ独身なので) 

クラウドファンディングと、かたや宣伝をさせない敵対勢力

エンドロールを観てあとから知ったことなのだが、この作品はクラウドファンディングでたくさんの支持者からの支援が集まったことで映画化が実現したものだった。

今回、映画を観るのに同席してくださった人が言っていたウワサ話なのだが、以前のんさんが旧所属事務所レプロとトラブルになった経緯から、レプロがのんさんの邪魔をして『本作品の宣伝をしないように』とそこらじゅうに圧力をかけたという話がある。

真相は知らない。
むしろ知りたい。

がしかし、本作品そのものが訴える美しいメッセージ性なども相まって、もしこれが事実だとすればレプロの姿勢はさすがにちょっといただけない。 

エンドロールにはクラウドファンディングに参加してくださった支援者の皆さんの名前が列記されている。
そのたくさんの人々の想いを目にしたら、これまたいちおう人間である敵対勢力は一体何を感じるのだろうか。

懸命に生きるすずさんと、声を担当したのんさんが重なって、ますますのんさんを応援したくなってしまう視聴者もいるはずだ。